なんでもないことなのだけど

私は小さな頃からダラダラと寝っ転がっているのが好きだった(今もそうだ)。
そんな私に祖父は折に触れて言った。人間の生活は突き詰めると、技術と知識を身につけることに尽きるのだ、労働でも遊びでも家事でも、それに熟達していくことこそが重要だ、と。
祖父はフィクションでよく見る大人のように、口うるさく勉強しろ勉強しろと言うことは決してなかった。孫がテレビゲームに夢中でも逆にやり方を聞いてくるような人だった。
ただ、何かを知ろうとしたり、何かを出来るようになろうとしたりしないことが理由もなく続き、時間を浪費しているようなときには、少し眉をひそめながら、最初のような話を繰り返すのだった。
私はある時聞いてみたことがあった。でも、凄いお金持ちだったりしたら、そういうことをしなくても暮らしていけるのではないか、と。祖父はその質問を待っていたように、それがもしかしたらいちばん大変で、つらい生き方なのかもしれない、と答えた。食べたり寝ていたり、気晴らしばかりの暮らしは、とても寂しいものだろうと。身につけたものは何であっても決して自分を裏切らないけれど、自分の中に何も頼るものがないのは、とても寂しい気分だろうと。
今でもふとした合間、私は手持ち無沙汰にぼおっとするけれど、その言葉を思い出しては、起き上がっている。
















ってまあ全くの嘘なんですけど。祖父はふたりとも上記のような人ではないです。限りなく教訓めいた作り話をしようと思い立ったのです。お疲れ様でした。