読書

はてなハイクのログから引き揚げ

私は大学生になってしばらくの頃から難しい小説があまり読めなくなって、今はweb小説やマンガを娯楽として読むくらいで、それさえ積んでおくことも多いのだけれど、自分自身でもわりとこれにはわだかまりがある。しかし、自分にとって読書というのは読みたい…

泥のごとできそこないし豆腐投げ怒れる夜のまだ明けざらん

泥のごとできそこないし豆腐投げ怒れる夜のまだ明けざらん 松下竜一 作者二十五歳のときに初めて作ったこの歌で朝日歌壇に投稿、入選したらしい。驚く。 家族の病気で大学進学を断念後、生家の豆腐店を継いで歌作を始め、その後経営難から閉店、ルポ作家に。…

みなもと太郎『レ・ミゼラブル』

http://www.j-comi.jp/book/comic/42361 先日偶然読んだ。登場人物たちが深刻に悩んだかと思えば有頂天に喜びまわったり、ドタバタしていておかしいんだけど、あまりにもドタバタしているからか、自分の悩みや喜びも他人から見ればこういうものなのだろうか…

コードウェイナー・スミス『ノーストリリア』

浅倉久志訳、ハヤカワ文庫。 少年は地球へやってきて、なみはずれた冒険を重ねたすえに、自分のほしいものを手にいれ、ぶじに帰ることができた。お話はそれだけだ。 そう、その通りの、愛と勇気のお話だった。ティプトリーやディック的な悪夢のようなものか…

鮎川信夫『死んだ男』と昔のこと

鮎川信夫の『死んだ男』という詩をたぶん国語の教科書で初めて読んだとき、なんだか気取った言葉遣いだと思って、「埋葬の日は、‥‥」から始まる最後の部分と、特によくわかるような気がした終わりの二行以外はあまり感想も持たずに忘れてしまった。最近偶然…

中島敦『光と風と夢』のちょっとした誤謬と思われる記述について

中島敦の唯一といっていい長編、『宝島』や『ジキル博士とハイド氏』を著したロバート・ルイス・スティーブンスンを描いた『光と風と夢』(数年前から途中で積んでいる)に次のような段落がある。青空文庫から引用する。 生垣の中にクイクイ(或いはツイツイ…

支倉凍砂『狼と香辛料 16』

先日読了。 途中までロレンスの影が薄くてどうなることかと思ったけれど、最後きっちりホロと一緒に主人公らしいところを見せていて安心。ホロと一緒に、ってところがクライマックスの書き方として実にこの作品らしくてよかった。 思えば狼と香辛料を読んで…

リチャード・ブローティガン『アメリカの鱒釣り』『芝生の復讐』『西瓜糖の日々』

『アメリカの鱒釣り』はよくわからない本だった。不思議な話だった。幻想というか、椅子に座ってぼうっとしてるときのような空想が、現実の出来事の記述に挿入されたりまぜこぜになったり。以前(これも去年の十月か)読んだ『芝生の復讐』のほうが似たよう…

ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア『故郷から一〇〇〇〇光年』『愛はさだめ、さだめは死』

手元の記録によると『故郷から一〇〇〇〇光年』は去年の十月五日には読了しているらしかったが感想は上げていなかったようだ。 人間や性、愛、世界、運命、そういうものに対しての無常感と違和感。私はエイリアンだからこんなところにはとても耐えられない、…

田辺聖子『ジョゼと虎と魚たち』角川文庫

前にサガンの『ブラームスはお好き』を読んだときも同じだったけれど、だいたいが中年の女性の恋愛ものなので、普段読んでいる小説と大分毛色が違ってついて行くのが難しかったが、人間をみっともなさや冷酷さや優しさ、及ばないところや優れたところなどが…

尾形亀之助『色ガラスの街』『雨になる朝』『障子のある家』

なんだか概ね簡素で短くて平板で退屈なんだけど、それがかえって自由で枯淡にも思えて、慣れてくるとときどき奇妙なところやロマンチックなところ、寂しさも感じられるようになって、不思議と気に入ってしまった。 そんな後で『雨になる朝』の後記や、『障子…

今年の新潮文庫の百冊から二冊

yondaグッズ(今年はバンダナらしい)を貰おうと思って二冊読んだ。有名どころをつまみぐいする読書癖のせいで読んだり積んだりしてない百冊が年々少なくなっていく。 南直哉『老師と少年』新潮文庫 自分探し分野の禅問答入門といった感じか。シンプルにわか…

電子書籍についての覚書

紙は十数枚なら薄くて軽い。何百枚となると厚くて重い。電子書籍は検索がしやすい。電源がいる。持ち運べる電源には寿命がある。モニタがいる。モニタは大きくすると折り畳めない。 私が二百ページの文庫本一冊を持ち運ぶなら紙のほうが便利だけど、十冊まと…

クリスマス

昨日近くのアウトレットモールで早々とクリスマスの飾り付けをやっているのを見て、昔スガシカオがラジオで、会社員時代の仕事で一番記憶に残っているのは、病院の中庭にクリスマスの電飾をつけたことだ、と話していたのを思い出した。病院の人たちが喜ぶの…

御影瑛路「空ろの箱と零のマリア2」

著者は話を作ったり伏線を通したりするのがどんどん上手くなってる気がする。心理描写で理が勝ちすぎるのも個性と言っていいし、恋愛要素が抜けないのはラノベとしてはほとんど必要十分だろう。このままいったら普通にアニメ化とかするんじゃあるまいか。

小説について

どうにも、未知の名作を読めば読むほど、少しはマシな人間になれるのではないか、そんな思い込みがある。そんなわけで、私には小説を読むのは趣味に加えて自分自身の重要な仕事のようにも思える。楽な上に生産性のまったくない仕事だが。

トルーマン・カポーティ「冷血」

構成や描写、採られている発言、取材されてる人々の人生が目の前にあるようで本当に面白いんだけど、実際に起きたことだし、虚しさや喪失、私たちを押しつぶしてしまうどうにもならない出来事、そういうもので一杯だから面白いなんて言っていいのかわからな…

宇仁田ゆみ「うさぎドロップ 6」

まさかこういう流れになるとは思わなかった。でも登場人物たちの人格と物語が確かに結びついているので失望はない。 劇中のように会話が通じることも現実にはあまりないだろうけど、この巻は心に強く残るだろうと思う。複雑で切実な恋愛と人生の一区切り。

米澤穂信「儚い羊たちの祝宴」

借りて読んだ。メイド小説だった。殺人とメイドが両方好きな人は読むといいと思う。 ちょうど真ん中で一息つけたせいか、三話目の「山荘秘聞」のユーモアが効いていた。

こがわみさき「陽だまりのピニュ 5」

終わってしまった。登場人物の心理を、伏線を巧みに通して、しかも台詞に頼らずに描くのがこの人の凄さ。どうやって作ってるのかさっぱりわからない。魔法のようだと思う。

オーウェル「動物農場」

厭世家のロバに感情移入してしまったか。豚以外の動物たちが起こったことを端から忘れていってしまって、記録に残す手段もないのがひどい結果に繋がっているように読めたけれど、自分の記憶を掘り起こしても十年前がどうだったかも怪しく、覚えている物事も…

読んだメモ

グレッグ・イーガン「祈りの海」。自分の思っている「自分自身」が作り物だったら、という話が多いような気がした。いくつか、この設定は正しいのだろうか、とか、この設定だったらもっと違った展開にならないか、とか考えてしまった。そんな風に気になって…

唐辺葉介「犬憑きさん(上・下)」

作者の人間観と文章は前から好きだけれど、今作は特別気に入りすぎた。ひとつひとつは挙げないけれど、何回も描写や場面に心を動かされた。物語が全体として前向きなのも原因かもしれない。 原体験、青年期、憑き物筋や非定住民が持っていた被差別性や象徴性…

山田穣「がらくたストリート1」

二輪とアニメとチャーハンとヘラブナと水泳とヤクザと宇宙人と民俗学。作者の広汎な趣味性とラジカルな人間観とユーモアがいっしょくたになっていてとても面白かった。さすがベテラン。

サガン「ブラームスはお好き」

書きぶりが上手いのはわかるんだけど、ほんとうにさっぱり物語と自分の接点が持てなかったので最初に開いてから何ヶ月、何年たってるかわからない。でもいちおう最後まで読んだ。まあこういうこともあるよね。

御影瑛路「僕らはどこにも開かない」

他の著作三冊を貸してもらって興味が湧いたので読んでみた。最初常識とは、とか人間関係とは、とか観念的な話で始まるので何かと思ったら恋愛で終わった。 ……おかしい。この本はおかしい。でもこのおかしさは人真似が出来ない類のおかしさだ。他の作も恋愛が…

ニャルラとテップ

這いよれ! ニャル子さん (GA文庫)作者: 逢空万太,狐印出版社/メーカー: SBクリエイティブ発売日: 2009/04/15メディア: 文庫購入: 21人 クリック: 490回この商品を含むブログ (218件) を見るこういうものが出るらしい…… どっかで似たようなネタ見たなあと思っ…

SFが好きな理由

SFが好きなんですよ。例によってあんまり数読んでないけど。なんというか、空間とか時間とかの枠を取っ払った上で、葛藤や空しさとかを書いているやつが好き。ファンタジーはあくまで神話とかがベースなので、物語としての流れとか、時系列に沿った展開がい…

米澤穂信「小市民シリーズ」について

未整理。未読の人は読まない。

米澤穂信「秋期限定栗きんとん事件」

えぐい…… なんなんだろうこの栗の渋だけ食わされたような読後感。面白かったけども。 主人公ふたりのひとでなしっぷりが顕著で、このシリーズに持ってた印象がちょっと間違ってたかと思う。最初から善悪とか正義とかそういえばあんまり関係なかった。基準は…