コードウェイナー・スミス『ノーストリリア』

浅倉久志訳、ハヤカワ文庫。

少年は地球へやってきて、なみはずれた冒険を重ねたすえに、自分のほしいものを手にいれ、ぶじに帰ることができた。お話はそれだけだ。

そう、その通りの、愛と勇気のお話だった。ティプトリーやディック的な悪夢のようなものかと思い込んでいたのだけれど、悲痛でも陰鬱でもない。「灰色の乾いた世界で病気の巨大な羊が生み出す不老長寿の薬が」とかで身構えすぎた。人類補完機構ディストピアの黒幕にするには少し違うように感じた。不可能もあるし、試行錯誤を積み重ねている。長官たちの合議制で、その長官たちはだいたい同じ理念を追いかけようとしている。下級民たちには生気があるし、彼らの夜明けも近そうだ。〈人間の再発見〉の時代の話、ということだからかも知れない。
〈心からの願いの百貨店〉、ロッドの願いの尊さが胸を打つ。私の心からの願いはきっとこんなに美しくない。ただしい人には、財産と愛と伴侶と、すてきなお土産も与えられる。そういうお話。ク・メルさんはたしかにかわいいけどラヴィニアさんもかわいいよ。
そしてその後のノーストリリア。私は、最後に語られたのは、「彼が願わなかったもの」だったのだろうと思った。
本作だけだとティプトリーが一緒に語られがちな理由がわからなかったので、他の本も読んでみる。