唐辺葉介「犬憑きさん(上・下)」

作者の人間観と文章は前から好きだけれど、今作は特別気に入りすぎた。ひとつひとつは挙げないけれど、何回も描写や場面に心を動かされた。物語が全体として前向きなのも原因かもしれない。
原体験、青年期、憑き物筋や非定住民が持っていた被差別性や象徴性、科学的に解釈できるともできないとも割り切れないものとしての呪い、そういうことが互いに連絡されて、人間の集まりそのものをある側面から捉え尽くしてあるとさえ思った。
不満点が少しもないというのも怪しいので、この感想を読んで本書に興味を持った奇特な方は、他の感想も読んでみるといいと思う。