田辺聖子『ジョゼと虎と魚たち』角川文庫

前にサガンの『ブラームスはお好き』を読んだときも同じだったけれど、だいたいが中年の女性の恋愛ものなので、普段読んでいる小説と大分毛色が違ってついて行くのが難しかったが、人間をみっともなさや冷酷さや優しさ、及ばないところや優れたところなどが次々に現れるような、多面的な人格として捉える書き方はさすがに非常に上手くて嘆息した。
主人公たちと年齢が近いからか、表題作が一番気に入った。ジョゼの奇矯な人格や美しさ、最後に語られる無為や諦観の混じった未来の無い幸福が魅力的だった。それに影を落としている障害観や、他の収録作にもある物質的な豊さは、おそらく八十年代ぐらいだろう、作品の時代性が感じられて興味深かった。