0-01-01から1年間の記事一覧

残酷であるとはどういうことか。 それは、善人でも悪人でも、相手がたとえ誰だとしても、災害のように全くの偶然によって不幸をもたらすことではないか。 善にせよ悪にせよ、あるいは美にせよ醜にせよ、ある属性のものにだけ残忍というのでは、理由がわかっ…

時間と歌

母と私は老人ホームの祖母を見舞いに来ていた。午後二時、入居者たちの集うホールには大きくとられた窓から光が満ちて、どこからかラジオの音が聞こえてくる。 ラジオから流れる歌に、いい歌だね、紹介を聞き流してしまったけど誰の歌だろう、と祖母が尋ねる…

傘折り男

数年前のこの街で、翌日晴れると予報された雨の日には、コンビニや商店の傘立てに置かれた傘を折っていく男が出没していた。 この街の住人は皆ビニール傘しか持たなくなったし、傘折り男の噂を知らない不運な来訪者は、大切な傘の無残な姿にしばらく消えない…

恋をする、家族を作る、子供を愛する、本能。本能というときに自分以外の誰かを主語にしてはいけない。それは確かに自動的で、あなたにとっての本能ではあるだろうけれど、私にとっての本能であるとは限らない。そこの猫や犬や蛇や蛙、一匹一匹、一人一人の…

虹が出て消えるあいだに さようなら 今朝見た夢は忘れてしまった (2010-05-03 00:29:34)

将棋盤覆したき師走かな (2009-12-01 17:17:24)

光洩れる雨戸を開けて消えてゆく嵐の夜の残りの空気 (2009-09-01)

近未来。温暖化で日本の夏は終わらなくなったが、過ぎた夏を惜しむ人はいまだに多い。 (2009-08-02 14:20:53)

かたつむり 悪気はないのに わざとじゃないのに ふみつぶしてしまう かたつむり (2009-07-21 15:10:44)

記憶の染みを洗い落としたら色が褪せた。 (2009-07-20 13:29)

夕暮れのあと、夜の手前のわずかなひととき。赤い光が地平線に遮られて、青い空がかえってくる。 (2009-07-20 00:16)

もうおしまいだ、おしまいだから、おしまい以外のことをしよう。 (2009-06-24 00:53:56)

何度も口に含む 記憶 笑顔 唾でべとべと もしかしたらもう 唾の味しかしない (2009-05-17 10:22:25)

とうとう空が落ちてきたが私の体は簡単に空を突き破った。 (2009-05-08 21:22:50)

夕食によばれた話

夜七時ごろ、ある家にちょっとした用事を手伝った礼として夕食に呼ばれた。おばあさんと夫妻、高校生ぐらいのお姉さんと、小学生ぐらいの弟と妹のいる家だ。 行ってみると知らない女の子もいる。その家のお姉さんより少し年上だろうか。彼女は近所に住んでい…

くああ。カラスが鳴いたように聞こえた。夜にカラスは鳴かないのに。家に帰る途中、今日は曇りで、表通りから少しはずれたこのあたりは不透明に暗くて、その中にいくつか電気の明かりだけがいつものように光っていた。 私の行く道はちょうど音のしたほうで、…

はてなハイク小唄

ハイクハイクで夜が明けて ハイクハイクで日が暮れる わたしゃ陽気なハイク民 渡る世間はネタばかり ハイクハイクでこんにちは ハイクハイクでさようなら 三々五々ハイク民 地獄の沙汰も☆(ほし)次第 ハイクハイクでふぬねろす ハイクハイクでめちねはも ら…

某所に書き逃げしたもの

あそこはずっと前から私が行きたかった場所だ、と彼女がいう。 それは確かにそうだ。彼女には辛いことが本当に沢山あった。いくつかは俺も見ていた。けれど俺は彼女に特に何もしなかった。 そこは確かに彼女にとっての救いなのだろう。とてもいいところだと…

私たちの行く道は限られている。人生の隠喩ではなくて、毎日の生活で実際に移動する道のこと。仕事や学校に通う道を日によって変える人は少ない。もちろん休日になれば遠出を楽しむ人も多いけれど、買い物や娯楽施設も通い慣れるもの。通り道は両手両足で数…

私の生まれた村には もう人がほとんどいない 私の村のことばを話す人も 私の村の名前も 私の村の昔語りも あと五十年もしないうちに消えてしまう 悪いことではない この街では今でも子供たちが 明日を楽しみにして笑っている 誰が彼らの明日を呪えるのか 時…

卵について

一 スーパーで卵が千個売られていると、そのうちの五十個は床に落ちます。五個は何かに投げつけられます。 二 スーパーの卵からひよこが孵ることがあります。温められなくても、無精卵でも孵るのです。ひよこはとても素早くて強いので、勝手に外に出て、すぐ…

ぎこちない身振り 伝わらない感情 根拠のない自信 対象のない嫉妬 傷つける人への恨み 傷つけたい憎しみ 一人でいられない 二人でいられない 共通する部分 共通しない部分 することがない 従うことも出来ない 誰か 誰かまた返事をしても それでまた何かが変…

やぎさんゆうびん

しろやぎさんは手紙の内容がわからないけれど返事を書く。くろやぎさんも内容がわからないけれど返事を書く。手紙を出すとかならず手紙が返ってくる。 あるときくろやぎさんから返事の手紙がこなくなった。しろやぎさんは手紙を書く。さっきの手紙は届いてい…

植民地の歌

戦火の後に生まれた 混血の子の父と母は 国境を渡る旅の途中で 出会うはずだったのではないか 怒りと戦いを歌った詩人は 草木と鳥の歌を あるいは酒と放蕩の歌を 歌うべき人ではなかったか (2009-11-01 02:32:14)

君の名前を忘れてしまった よくある名前 ありふれた響き 大事なものとも思えなかった もちろん顔も忘れたし 写真のひとつも持ってない 私は同じところをぐるぐる回った どうしてもしなければならないことだった 意味がないのはわかっていた 君はまっすぐどこ…

雪の進軍

近所のスーパーは人気が悪い。もとの棚ではないところにかごから戻したものを置く客がいるのだ。今日も無糖ヨーグルトのパックが整列した上に、玉ねぎが一袋載せられていた。 ああフリードリヒ(玉ねぎの名前)のきょうだいたちよ、どうしてこんなところまで…

ささいなことにつまづいて いつまでも寝転がったままでいよう 毎日を積み重ねずに ただ並べよう そしていつか幸運が 降ってくるのを待とう ひとりでは決して 旅に出ず 本も読まず 体も動かさない そしていつか幸運が 降ってくるのを待とう (2009-06-04 23:41…

「ねえ、これ欲しいでしょ? あげるよ。あれは? もっと遠慮せずにいいなよ、ほら、」 「うるさい。うるさい。ほんとうに欲しいものはいくらいってもくれないくせに。」 (2009-03-02 14:23:08)

なによりわかってほしいことは、いわなければわかってくれないとわかっているけれど、いいたくないこと。 なによりわかってほしかったことは、いってもわかってくれなかったこと。 (2009-02-14 15:14:02)

まな板の上のキャベツに呪われた。「私を食うお前が憎い。呪ってやる。」気にせず千切った。所詮キャベツの言うことだ。 (2008-12-21 23:23:36)